1月に入るとスギ花粉の飛散がぼつぼつ始まります。約4人に1人と国民病とも言われるスギ花粉症ですが、これは世界的にみると日本特有で、戦中の軍需利用で大量の木材を消費したために戦後にスギ植林を日本各地で行ったことがその一因と言われております。
鼻汁を訴える患者さんにアレルギー性鼻炎と言われたことがあるかを聞くことがありますが、「花粉症は言われたことがあるけどもアレルギー性鼻炎と言われたことはありません」という答えが返ってくることが時にあります。花粉症自体はアレルギー性鼻炎の一つで<季節性アレルギー性鼻炎>と言われており、それに対してハウスダストやダニなど1年を通して反応する鼻アレルギーを<通年性アレルギー性鼻炎>と言います。
アレルギー性鼻炎の診断は採血で行うのですが、アレルギー自体は抗原と抗体が反応して起こる免疫反応(抗原抗体反応)ですので、それぞれの鼻アレルギーをきたし得る抗原(ハウスダストやダニ、春のスギや秋のブタクサなど)に対して自身がIgE(アレルギーに関係する抗体)をどの程度持っているのかで重症度の目安となります。いわゆるRIST・RAST検査と言われるもので、臨床の現場では約40年前から取り入れられております。RISTとは総合的な血中のIgEを測定するもので、アレルギー反応がどの程度体の中で起こっているのかを示します。もう一方のRASTとは各々の抗原に対してどれだけアレルギー反応が出ているのか(IgEが高いのか)を示します。
近年はさらに抗原の中でもよりミクロなレベル、すなわちIgEが結合するタンパク部分の解析が進んできており、IgEが直接結合する部分(タンパク)をアレルゲンコンポーネントといいコンポーネントでアレルギー反応を捉えていく時代になろうとしております。言い換えれば食物アレルギーやアレルギー性鼻炎はそれぞれの食物や花粉に対して起こっているというのはやや粗い理解であり、それぞれの食物や花粉がもつもっと詳細なコンポーネントの部分でアレルギー反応を理解していこうというものです。この理解が医療の場で応用されているのは主に食物アレルギーの分野ですが、耳鼻科領域でも近年は「花粉–食物アレルギー症候群(PFAS)」や「口腔アレルギー症候群(OAS)」と言う概念で取り上げられております。
PFASやOASの代表例の一つに春に花粉を飛散するハンノキ(カバノキ属)にアレルギーを持つ人がリンゴを食べると口のイガイガをはじめとしてアレルギー症状を引き起こすという状態があり、これはハンノキのもつコンポーネントとリンゴの持つコンポーネントが構造として似ているため、ハンノキのコンポーネントに反応するIgEがリンゴのコンポーネントにも結合してアレルギー症状が出てしまうためと言われております。ただこのリンゴのコンポーネントは熱で変性してしまいますのでアップルパイであればアレルギー症状は出ないということも分かっております。
これらのコンポーネントに関する新たな知見がどんどん明らかにされていくことで病態の新たな解明や治療の多様化に繋がる可能性が言われており、当院でも春にアレルギーを有する方のアレルギー検査(RAST検査)にはハンノキ花粉を加えております。今回はやや専門的な話になってしまいましたが、気になる方は一度ご相談ください。