「インフルエンザワクチン打ったのに家族全員かかったわ・・ホンマに意味あるんかな・・」こういう声も未だ聞かれる現状ですが、そんな中でも毎年この季節になると各病院や診療所でインフルエンザワクチン接種が始まります。僕が子供の頃はワクチン接種が学校で義務化されており、皆一列に並んで嫌々ながらワクチンを打たれていたものでした。詳しくは昭和51年から学童へのワクチン接種が義務化され、その後「ワクチンの効果」が疑問視され平成に入った頃には義務化から準義務化となりました。さらに平成6年には学校での集団接種はなくなり、それ以降は事実上の任意接種となり接種件数は激減する経緯を辿るのですが、この「ワクチンの効果」が疑問視された最大の理由は冒頭の声のように打ったのにインフルエンザにかかるという事実が、ワクチンが効いてないという「誤解」を与えてしまったせいだと言われております。
これがなぜ「誤解」かと言いますと、現状のワクチンはインフルエンザにかかった後の症状を和らげる為のものであり、決して予防では無いからなのです。ただ、症状を和らげる効果は科学的にも検討されており、平成6年以降に学童の集団接種が廃止された後に高齢者のインフルエンザ関連死が増えたこともインフルエンザワクチンの効果(症状の重症化を避けるという点)を裏付ける歴史的事実とされております。
では、なぜインフルエンザワクチンが感染予防ではなく症状緩和にしか効果がないかということですが、それは現状のワクチンが不活化ワクチンであり「血中の免疫」を上げる働き、いわゆる血中のインフルエンザ抗体を強化する効果しかないという点です。インフルエンザが感染するのはくしゃみや接触によるもので、ウィルスが目鼻や口の粘膜に侵入することで感染していきます。その後感染が成立すると遅れてインフルエンザ抗体が産生されて「血中の免疫」が作られていくのですが、感染の予防効果を目指すのであれば、感染が成立する前の粘膜の部分でウィルスをやっつけるいわゆる「粘膜の免疫」の強化が必要です。加えてこの「粘膜の免疫」はインフルエンザの型(A型・B型など)を超えて効果があるとされている点も従来の不活化ワクチンよりも優れているとされています。
近年、この「粘膜の免疫」を上げるインフルエンザワクチンの開発も進んでいます。いわゆる経鼻ワクチンと言われるもので、鼻から生ワクチンを散布して擬似感染状態を作り出して免疫を誘導するメカニズムです。日本では未承認であるものの欧州や米国では先行使用されており、従来の不活化ワクチンよりもメカニズムの上では効果は高いとされ、専らその感染予防効果に関しては一目置かれております。ただし、日本で未承認である理由として免疫反応が弱い高齢者にはうまく免疫がつかずに効果がないとされている点や生ワクチンであるがゆえに保存状態でその効果に変動があり、中々うまく免疫が獲得できないという報告も多くその効果が疑問視されている点が挙げられます。ただ、医学は日進月歩ですので感染メカニズムをさらに詳細に解明していくことで、免疫反応が弱い高齢者も含めしっかり免疫が獲得できるような経鼻(経口)ワクチンの開発が進められている現状です。
「インフルエンザワクチンをしたから、我が家はインフルエンザ知らず」そんな時代も近いかもしれません。