寒い時期が続く中、鼻症状でお悩みの方が多い印象です。この時期のアレルギーは何ですか?とよく聞かれますが、スギやハンノキの花粉が軽度飛散しそちらに反応していることもありますが、ウィルス感染による感冒症状やそれによる副鼻腔炎が主だっていることもありますので、鼻や喉の粘膜の状態を観察して適切な投薬となるよう心がけております。
鼻炎の診断をするにあたって視診は欠かせないのですが、中には鼻炎症状の訴えの割には診察時には比較的綺麗な粘膜の方や萎縮といったアレルギーや感染とも異なる粘膜の方もおられます。こういったアレルギーでもなく感染でもない鼻炎のメカニズムには神経反射の関与が言われており、寒いところで鼻水がよく出るといった寒暖差アレルギーといった血管運動性鼻炎や食事の時に鼻水や鼻詰まりが起こる味覚性鼻炎などが挙げられます。寒暖差があると自律神経の乱れが生じますし、食事の唾液分泌も自律神経が担っておりますので、いわゆる自律神経系の鼻炎とも言われてきました。ではなぜ自律神経が鼻の詰まりに影響するのかというと、自律神経は血管を縮めたりや広げたりしており、鼻粘膜の下には多くの細かい血管が存在するため、血管が縮んでいる時は粘膜が縮むので鼻は通り、血管が広がっている時は粘膜が腫れて鼻詰まりを生じてしまうということになります。
自律神経以外に寒さ刺激や辛さ刺激を司る知覚神経も、血管を広げる物質を放出することもわかっており、寒さ刺激や辛いものを食べた時に鼻水や鼻詰まりが起こるのは自律神経や知覚神経の複合的な要素で起こるのではないかと考えられます。こういった神経の反応と鼻症状の関係を示した興味深い研究の一つに、足湯によって鼻症状の緩和が見られたという報告があります。足湯ということで、いかにも温泉大国日本からの報告なのですが、足の温度が上がると鼻の粘膜の温度も上がるという神経反応があり、それにより鼻症状が改善する可能性を示したものです。鼻炎でお悩みの方は一度試されてみては如何でしょうか。
自律神経と鼻詰まりに関して、最近の知見をもう一つ。自律神経が鼻に影響を与えている生理反応の一種にnasal cycleというものがあります。片方の鼻が広がればもう片方の鼻は縮まるというものです。片鼻が詰まるのは病気ではないのか?ということで日本では交代性鼻炎と呼ばれているのですが、自律神経のバランスが取れている証拠の一つであり、もちろん病気ではありません。このnasal cycleの目的は鼻を片方ずつ休ませるなど諸説ありましたが、2021年にイギリスから新説が提唱され、その内容はnasal cycleが感染防御に対する役割を担っているというものです。元来、気道感染を起こすウィルスは32℃でよく増殖し37℃で増殖が抑えられることは知られていたのですが、鼻呼吸をする過程でnasal cycleにより片方の鼻が詰まる状況を作ることで咽頭部での加温が維持されウィルスが増殖しにくい状況を作っているというわけです。加湿下でもウィルスの増殖は抑えられますので、鼻の加温・加湿機能というのが生態防御の観点からは重要な働きをしているということです。
このことは手術をする側からも留意しなければならない点です。口呼吸が続くようなひどい鼻詰まりで、投薬でのコントロールが困難な場合は鼻腔形態を改善する手術も考慮しなければなりません。ただ上述の観点から鼻腔形態改善術においては、鼻の通りだけを念頭に置くのではなく、加温加湿機能を考慮した手術が大切であるということです。当院でもその点に注意を払い手術を行なっております。