新型コロナが5類感染症に移行されました。パンデミック前の日常を取り戻しつつありますが、新型コロナとの共存は続きますので、怖がり過ぎず、甘く見過ぎず、適切な感染対策を実施していきたいと考えています。ウィルスとの共存という意味では、この時期(春から夏にかけて)はライノウィルスなど鼻炎を引き起こすウィルスが流行し、季節性アレルギー性鼻炎(いわゆる花粉症)とも重なり、鼻炎で悩む方が多くなります。鼻炎がこじれて副鼻腔炎を引き起こす方も多く、副鼻腔炎に至ると鼻周囲や額の痛みも伴ってきますので日常的には鼻炎よりさらに辛い状況となります。
副鼻腔炎には急性と慢性があり、急性は感染による鼻炎が引き金となっておりそのほとんどが風邪(ウィルス)からの移行と言われております。慢性については、急性を繰り返すものが慢性と従来考えられてきましたが、現在は急性の反復という病態は、慢性とは病態が異なるゆえに分けて考えるのが正しいとされています。では、副鼻腔炎の慢性とは?という事ですが、その病態は急性のような持続感染があるのではなく、免疫応答異常などの持続炎症がある状態と理解されています。ややこしいですが、簡潔に言えば、急性は感染が主体、慢性は感染が主体ではないということです。
このことは、治療法に反映されます。急性は感染ですがウィルス感染が主で、抗生物質が必要な細菌感染に発展するのは2%程度と言われています。ですので、急性の治療で積極的に抗生剤を使用するのは基本的には推奨されておりません。ただし、状況に応じて抗生剤を使用しなければ眼や頭に炎症が波及するようなよりひどい状況にもなってしまいますので、ガイドライン(IDSA:米国感染症学会など)に則って適宜必要と判断した際には抗生剤を使用しないといけません。慢性においては、その背景は感染主体ではありませんので抗生剤は基本的に必要ないことになります。ただ、細菌を殺す「殺菌的」なものとは別の細菌の増殖を抑える「非殺菌的=静菌的」な抗生剤であるマクロライド系抗生剤(ML)はよく使われます。これはMLの抗菌作用以外の抗炎症作用に期待した治療で、慢性の病態が持続炎症であることを考えれば理にかなっており、少量で長期間投与することで効果も示されております。現時点では副作用も少なく有効な治療と考えられていますが、投薬はあくまでも全身投与ですので長期投与となると薬剤耐性(抗生剤が効かない細菌の出現)の問題や全身への影響(肝機能障害など)に気を配らなければなりません。
慢性の治療について最近のトピックスを少し。慢性の病態が持続炎症であるという観点から、抗炎症作用がありかつ局所投与で安全性の高いステロイドの噴霧にスポットが当たっております。従来の鼻の噴霧ステロイドは、その成分の5%以下しか副鼻腔炎の炎症部に到達せず、その薬剤到達法が課題でした。そのことを改善すべく、米国では呼吸補助下での鼻のステロイド噴霧(XHANCE®️)が開発され、より鼻腔の深部まで有効成分を到達させることに成功しております。国内においても喘息用の吸入式噴霧ステロイドを口から吸って鼻から出すという「経鼻呼出療法」が慢性副鼻腔の治療にも応用されております。慢性でもより重い好酸球性副鼻腔炎に対してですが、症状改善に有効であると報告されております。当院でもできるだけ有効な点鼻吸入指導をして、症状の改善に努めております。