『未知の臓器が喉の奥から発見!』とネットニュースにもなりましたが、2020年にオランダのがん研究施設のチームが喉の奥ではなく鼻の奥の耳管という耳と鼻を繋ぐ管の周囲に新たな分泌腺(唾液腺?)が存在していると発表しました。今までの解剖学の教科書にも記載されていない知見であり、鼻の奥の湿潤や嚥下に関わっているのではと推測され、さらには耳管機能障害などの病態にも関わっている可能性もあるとのことです。
耳管機能障害とは鼓膜の奥の中耳の圧交換を担っている耳管がうまく働かず、中耳の圧を一定に保てない状況に陥ることです。通常耳管は閉じており嚥下(飲み込む)時に開き圧交換が行われるのですが、うまく働かない病態として嚥下時に開きにくくなっている状態(耳管狭窄症)ないしずっと開いたままで閉じない状態(耳管開放症)が挙げられます。耳管狭窄症の原因は鼻の奥に腫瘍や顕著な後鼻漏(鼻の奥への鼻汁の垂れ込み)・炎症が存在することで、具体的にはアデノイドという鼻の奥の扁桃組織や副鼻腔炎・アレルギーによる慢性炎症によるところが大きく、アデノイド切除や内服による消炎で治癒することが見込めます。それに対して耳管開放症はその原因が耳管周囲の脂肪減少や血流低下によるところが大きいとされ、体重減少や妊娠に伴って発症しやすいと言われています。加えて、耳管開放が重度だとなかなか戻りにくく、完治に至りにくい病気です。
加えて耳管開放症は、完治しにくいがゆえに症状などの持続によって二次被害をもたらしてしまいます。その一つは「自声響音」といって自身の声が耳管開放のある側の耳に響いてしまう状態で、この症状が持続すると喋る度に声が響くために喋りづらくなり、重度の場合は会話がつらくなり引きこもりや鬱へと繋がる可能性もあります。他に、症状ではないのですが耳管開放症の方に多く見られる「鼻すすりの習癖」というのも二次被害をもたらします。鼻をすすることで耳管は閉じる状態に向かうため、耳管開放症の方はよく無意識に鼻すすりを行ってしまいます。鼻をすする行為は中耳の圧を陰圧にする(圧を抜いてしまう)行為になりますので、継続的な鼻すすりは中耳の慢性的な陰圧状態を生んでしまいます。この状態が続けば鼓膜が凹んだり癒着したりする中耳炎(癒着性中耳炎や真珠腫性中耳炎)となり、手術以外では治癒しない病態を作ってしまいます。
このような厄介な耳管開放症ですが、全く治療法がないわけではありません。内服で耳管周囲の血流を増やして耳管粘膜を膨張させる方法、鼓膜にチューブ留置を行い中耳の圧を抜くことで鼓膜の凹みを避けたり自身の声の反響を和らげる方法などがあります。ただ、これらの方法でも約5割の人にしか治療効果はないという現状であり、まだまだ完治困難な病気ですが、新たな治療法の開発も期待されております。最近では「耳管ピン」というシリコン性のピンを鼓膜経由で開放耳管に挿入することで、症状を緩和させる手術加療が国内で保険適応になっております。適応は重症耳管開放症の方ですが、従来の治療で効果の薄い方の一助となることが期待されています。
適切な治療を行うにはまずは正確な耳管機能障害の診断が必要です。耳管機能検査機器は当院でも導入しており、より正確な耳管機能の評価を行っておりますので、耳管機能障害かもと思われる方は一度ご相談ください。