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2021.09.16

副鼻腔炎 いま むかし

「はな垂れ小僧」という言葉があるように、昔は青鼻を垂らしている子供も多く、服で鼻を拭くため袖がカピカピになってしまう子供も多くいたように記憶しています。青鼻の原因の多くは感染からの修復過程の状態で、通常の免疫であれば自然治癒することが多いですが、長期間続く病態は持続的な細菌感染が存在し、3ヶ月以上続けば慢性副鼻腔炎でいわゆる「ちくのう症」となります。

最近では青鼻を垂らしている子供も随分見なくなりましたが、これは慢性副鼻腔炎が減ったからであると言われています。この傾向は成人にもあり、その背景には衛生状態が良くなったことや医療の充実によって重症化の予防がなされてきたことが大きいと思います。ただ、近年では従来の慢性副鼻腔炎に代わってアレルギーに起因し、喘息や鼻茸を合併しやすい好酸球性副鼻腔炎と呼ばれるものが増えてきており、衛生状態や医学の進歩に関わらず、アレルギー疾患が耳鼻科領域でも一昔前に比べると増加していることが関係していると言われています。

アレルギー疾患の増加の要因に関しては、諸説ある中で「衛生仮説」というものが近年注目されており、食を含めた生活環境の変化や衛生状態が良くなったことで逆にアレルギー反応が強く出てしまうというものです。やや専門的になりますが、アレルギーというのは白血球の一種であるTh1細胞とTh2細胞のバランスが崩れることで引き起こされるとされており、Th2細胞が増えるとアレルギー反応が強く出るとされております。Th1細胞は細菌感染の時に活躍するために、細菌感染の時はTh1細胞が活躍し、その反面Th2細胞が抑えられてアレルギー応答が出にくくなります。逆に言えば衛生状態が良くなり、細菌感染が抑えられた昨今の状況下ではTh1細胞の出番が少なく、Th2細胞が優位に立つためにそのバランスが崩れてアレルギー反応が強く出てしまうというわけです。

好酸球性副鼻腔炎もTh2細胞が関係するアレルギー主体の副鼻腔炎なのですが、喘息や鼻茸に加えて、中耳炎も合併しうる病態で、「はなづまり」「息苦しさ」「臭わない」「聞こえない」と四重苦で、重症の方は生活の質が大きく低下してしまいます。抗生剤やステロイド治療が基本治療となりますが効果は薄いことが多く、手術加療で鼻茸や病的粘膜の清掃を行えば鼻洗浄やステロイド点鼻薬等での管理である程度コントロールは可能ですが、術後の定期的なメンテナンスを怠るとまたすぐ鼻茸が再燃するという厄介な病態です。このような経緯からこの病気は2015年に国の指定難病となり、分子標的薬を代表とする新たな治療薬の開発も進んできております。

分子標的薬というと昨今では専ら癌治療方面での活躍が華々しいですが、簡単に言えば病気の原因や悪化因子となる分子(抗体やタンパクなど)を標的としてピンポイントに攻撃し、そこに関連する生体応答をブロックする治療です。好酸球性副鼻腔炎においてもアレルギーの免疫機構の中で特に炎症を強く引き起こすような抗体の存在が解明されていますので、その抗体を押さえ込むような分子標的薬がでてきております。同じアレルギー疾患であるアトピー性皮膚炎や喘息においては、重症例においてはすでに先駆的に使用されており、安全性も含めて良好な結果を得ております。新しい治療ですので適応は限られますが、当院でも使用可能としており難治性副鼻腔炎患者様の一筋の光となればと考えております。

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